メルクマニュアル家庭版, 食事 152 章 栄養の基礎知識
食事は本来、体重を減らす、体重を増やす、脂肪の摂取を控える、炭水化物を避けるといった目標の有無にかかわりなく、人が食べること全般を意味する言葉です。しかし最近では、英語で食事を示す「ダイエット」という言葉が、しばしば体重を減らすという意味に使われ、多くの人にとって強迫観念にもなっています。
子供と大人の標準的な健康的食事内容は、体重を増やしたり減らしたりする必要がなく、疾患、リスク、加齢などに伴う食事制限をする必要がなく、運動などの活動で平均的エネルギー量を消費している普通の人を前提にしています。そのため、ある人にとっては、健康的な食事が、標準的な食事として推奨されるものとかなり異なる場合もあります。たとえば、糖尿病、腎疾患、肝疾患、冠動脈疾患、コレステロール高値、骨粗しょう症、大腸憩室症、慢性便秘、食物過敏症の人には、それぞれ特別な食事が必要です。年少児向けに推奨される特別な食事はありますが、高齢者など他の年齢層向けの指標はほとんどありません。
減量のためのダイエット
減量には、体が毎日消費するカロリーより少ない量を摂取することが必要です。ダイエットで約230グラムの脂肪を減らすには、体が消費する1日の総カロリーより200kcal少ない食事を10日間続けなければなりません。消費量よりも400kcal少なく摂取すると、5〜7日で約230グラムの減量が可能です。約450グラムの体脂肪は約3500kcalを蓄えます。
最も一般的な減量ダイエットでは、1日の総摂取カロリーを1200〜1500kcalに抑えます。1200kcalより少ない食事では、タンパク質、鉄分、カルシウムといった必須栄養素が欠乏しがちになります。健康を保ちながらダイエットするには、食物繊維と水分を増やすことで、普段の食事と同量の食物を摂取すべきです。また、飽和脂肪と糖類を控え、抗酸化物質を含め必須栄養素はきちんと摂るようにします。食品表示を読むことで、飲食物の成分やカロリー(エネルギー)に意識が向くようになります。また、カロリー計算を習慣づければ、カロリー摂取を調節するのに役立ちます。人工甘味料や脂肪の代替品を使った食品を食べることで、カロリーの摂取量を減らすことができます。
ダイエットに加えて適度の運動をすると、カロリー消費量が増え、減量効果が大きく高まります。たとえば、速足のウオーキングでは毎分4kcalを消費するので、早足で1日1時間歩けば約240kcalを消費します。ランニングはさらに効果的で、毎分6〜8kcalを消費します。
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少ない量の食事を数回に分けて食べるのは減量に有効ですが、それにはいくつかの理由があります。普通、食後はインスリン値が上昇します。多くのカロリーを摂取すると、それだけ多くのインスリンが分泌され、特に炭水化物が多い食事では顕著です。高いインスリン値は体脂肪の蓄積を促進し、食欲を増進します。しかし、少量の食事を数回に分けて食べれば、インスリン値が高くなることはなく、体脂肪の蓄積を防止でき、食欲を抑える効果もあります。1日の決まった時間に決まった種類の食品を食べる工夫にも減量効果があります。たとえば、炭水化物のように早くエネルギーになる食物は、体が多量のエネルギーを必要としているとき、つまり朝か運動中に食べるのが最善です。体が必要とするエネルギーは夜間に最 も低くなるので、夕食に炭水化物を食べるのを控えることも減量に役立ちます。
高タンパク質低炭水化物ダイエット: タンパク質を多く摂り単純炭水化物を控えるダイエットはよく知られた減量法です。普通、このようなダイエットでは脂肪も制限されます。脂肪は含有エネルギー量が高いからです。しかし、アトキンスダイエットのような高タンパク質低炭水化物ダイエットでは、脂肪は制限されていません。
これらのダイエットの背景には、ゆっくりと燃焼するタンパク質や脂肪は安定したエネルギー源となるので、体重増加は起こりにくいという理論があります。加えて、人は炭水化物を食べた後より、タンパク質を食べた後の方が長く満腹感を感じる傾向にあります。炭水化物はすぐに胃から小腸に移動し、素早く消化されるためです。炭水化物はまた、脂肪の蓄積を促進し食欲を増進させるインスリンの分泌を強力に促進します。
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これらのダイエットの中には、血糖指数の高い食品を避けるよう推奨しているものがあります。炭水化物が入っている食品には血糖指数がついていて、消化速度と血糖値に与える影響がわかるようになっています。たとえば、メープルシロップ、はちみつ、キャンデーなどの糖類やニンジン、ジャガイモ、一部のシリアルなどのデンプンを多く含む食品は、速く消化され素早く血糖値を上げるので、高い血糖指数がついています。一方、全粒ライ麦パンやオールブランシリアルのような食物繊維を多く含む食品は、ゆっくりと消化され、すぐには血糖値を上げないため、低い血糖指数がついています。血糖指数は、血糖値を管理する必要がある糖尿病の人や、運動後に血糖値を回復させる必要のあるスポーツ選手に役立ちます。� ��かし、減量ダイエットをしている人には役立ちません。血糖指数が最も高い食品と最も低い食品で炭水化物が消化される速度の差はほんのわずかで、減量ダイエットをしている大半の人にとって、ほとんど意味はありません。血糖指数の高い食物を避けても減量が促進されることはなく、かえってビタミンやミネラルなど大切な成分を含む食品を排除することになってしまいます。
一部の専門家は、高タンパク質ダイエットを長期間続けることを推奨していません。高タンパク質ダイエットを長期間続けると、腎機能が損なわれ、高齢者に起こる腎機能低下の一因になるという研究結果もあります。腎疾患や肝疾患がある人は、高タンパクの食事を摂るべきではありません。
炭水化物を非常に低く抑えたダイエット(1日100グラム以下)も、ケトン酸の蓄積(ケトーシス)を引き起こす可能性があります。体が必要とする量のエネルギーを摂取しないと、体は脂肪を分解し、その過程でケトン酸をつくります。少量であれば、ケトン酸は何の症状も起こさずに腎臓からすみやかに排出されます。しかし、多量のケトン酸は吐き気、疲労、吐息の悪臭などを引き起こし、脱水によるめまいや電解質バランスが崩れることによる不整脈など、重い症状が生じることもあります。低炭水化物ダイエット(または他の減量ダイエット)をするときには、多量の水を飲んでケトン酸を体外に排出する必要があります。
低炭水化物ダイエットをすると、蓄えられていた炭水化物(グリコーゲン)がエネルギーに変わるため、最初の1〜2週間はかなりの減量がみられます。グリコーゲンが分解されると多量の水も排出されるため、さらに減量が加速されます。しかし、蓄えられていた脂肪がエネルギー源として使われはじめると、体重が減る速度は遅くなります。低炭水化物ダイエットは脂肪を多く摂りがちなので、カロリー摂取量が体の必要量より多くなってしまいます。この場合、グリコーゲンが使い果たされると減量は止まってしまいます。
低脂肪ダイエット: このダイエットは、減量と減量した体重の維持に最も効果的です。脂肪は1グラムあたりのカロリーが高く、タンパク質や炭水化物より体脂肪として体に蓄積されやすい性質をもっています。脂肪の摂取量を少し減らすだけで、かなりのカロリーを削減できるため、1日の総摂取カロリーを減らすには、タンパク質や炭水化物ではなく脂肪の量を減らす方が簡単で有効です。脂肪の摂取量を1日あたり10グラム減らすだけで、約900kcalのカロリー削減になります。体重を減らすには、脂肪の摂取量を減らしたからといって、タンパク質や炭水化物を増やすべきではありません。しかし、脂肪の摂取量を減らす主目的は血液中のコレステロール値を抑えることであり、ダイエットをしている人では、その必要がある人もいれば、必要ない人もいます( コレステロールの異常: 治療を参照)。
高繊維質ダイエット: 食物繊維は、いくつかの点で減量に間接的に役立ちます。食物繊維はかさがあるので、早く満腹感が得られます。胃が空になる速度が遅くなるので、長い間満腹感を維持できます。また、食物繊維はよくかまなくてはならないので、ゆっくりと食べるようになり、小食につながります。果物、野菜、パン、豆といった繊維質を多く含む食品では、カロリーを摂りすぎずに満腹感が得られます。食物繊維を多く含む食品を増やすことで、高脂肪食品など高カロリーで満腹感が少ない食べものを減らすことができます。しかし、グアルガムやセルロースといった食物繊維のサプリメントは、減量には効果はありません。
飲料ダイエット: 多くの人が、簡便という理由で飲料タイプのダイエット製品を使って減量をしています。しかし、飲料の内容はさまざまで、その大半はあまり減量には役立ちません。市販されている飲料タイプのダイエット製品の中には、タンパク質、炭水化物、脂肪、ビタミン、ミネラルが適切な比率でバランス良く配合されているものもあります。しかし、それ以外の製品では、甘くておいしい飲みものにするために炭水化物の比率が大きくなっており、必ずしもカロリーが低いとは限りません。逆に、こういった飲料タイプのダイエット製品は、体重を増やそうとしている人向けのサプリメントとしての方が役立ちます。
市販されている非常に低カロリーの飲料タイプのダイエット製品には、必要とされる栄養素がすべて含まれています。普通、1本220kcalのドリンクを食事代わりに1日4本飲みます。このようなダイエットは短期間の減量に効果的です。長期間の減量には、2〜3回の食事は飲料ですまし、残りの1〜2回の食事は低脂肪、低カロリーで栄養価の高い内容のものにします。
市販の飲料の代わりとして、牛乳を使うミルクダイエットがあります。このダイエットはシンプルで費用も少なくてすみ、短期間の減量に役立ちます。
グレープフルーツダイエット: 一時流行したこのダイエットは、多量のグレープフルーツとグレープフルーツジュースを摂取するというものです。このダイエットは、グレープフルーツに含まれる酵素が脂肪を燃やすのに役立つという理論に基づいていますが、この理論は証明されていません。
グレープフルーツは、脂肪を含まず、ナトリウムもほとんどなく、ビタミンC、ベータカロチン(ピンクグレープフルーツの場合)、食物繊維が豊富で健康に良い食べものですが、1種類の果物だけをベースにしたダイエットは、栄養面からみて健康的ではありません。グレープフルーツダイエットは一時的に総カロリー摂取量を減らすのに役立ちますが、健康維持に必要な栄養素をバランス良く供給することはできません。さらに、グレープフルーツは数種類の薬剤の血中濃度に影響を及ぼします(薬と食品の相互作用の例を参照)。また、多量のグレープフルーツを食べると下痢になることがよくあります。
食物の組み合わせや周期的な摂取によるダイエット: ほかに、ある一定期間ごとに特定の種類の食品だけを食べると減量が促進されるという理論に基づくダイエット法が流行しています。たとえばビバリーヒルズダイエットでは、通常6週間にわたって数種類の食品を周期的に食べるという方法が推奨されています。一定期間は果物だけでほかには何も食べずに過ごし、その後はパンだけ、次はタンパク質だけ、脂肪だけという食べ方をします。この方法が減量に良いという科学的根拠はなく、本質的に健康的な方法ではありません。
その他のダイエット: さまざまなダイエット法が流行しています。あるものは摂取カロリーを極端に減らします。脂肪の燃焼を促進するとされるサプリメントに頼るものもあります。また、1種類の食品だけを食べることをベースにしたものもあります。リチャードシモンズダイエット(1日900kcal)やアトキンスダイエット(1日2000kcal)は、ともに炭水化物の量が少なく、十分な水分を取らないと、脱水状態になります。リチャードシモンズダイエットを長く続けると、鉄分、カルシウム、タンパク質、ビタミンA、B1(チアミン)、B2(リボフラビン)、B3(ナイアシン)の欠乏を引き起こします。アトキンスダイエットは、脂肪とコレステロールが特に多い方法です。ビバリーヒルズダイエット、ライスダイエット、プリティキンダイエッ トは、脂肪とタンパク質が少なく、炭水化物が多いダイエット法です。ビバリーヒルズダイエットやライスダイエットでは、タンパク質、鉄、カルシウム、亜鉛、ビタミンB12が不足します。プリティキンダイエットの栄養摂取は比較的適切ですが、低脂肪で味が悪く、長く続けにくいものとなっています。これらのダイエットが減量効果を維持できるかどうかは実証されていません。また、その多くは必須栄養素の量が不足する危険なダイエットで、骨密度や骨の強度の低下(骨粗しょう症を含む)、月経異常、不整脈、コレステロール高値、腎結石、痛風の悪化などの重い代謝異常を引き起こします。
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